日本初の建設用3Dプリンターを開発するスタートアップ企業、株式会社Polyuseさんのロゴをデザインしました。この記事ではどのようなプロセスでロゴがデザインされ、デザイナーはどのようなことを考えてデザインしているのか記録したいと思います。プロジェクトスタートPolyuseさんから「ロゴを作りたい」という相談をいただき、プロジェクトがスタートしました。Polyuseさんはコンクリートを「印刷」してインテリアやエクステリア(外壁や外構など)から建物までを作り出せる、建設用3Dプリンターを開発するスタートアップです。株式会社Polyuseのプレスリリース:未来の建設現場で、"建設用3Dプリンタによる施工が当たり前に行われる世界"に向けて更にアップデートしていくべく、Polyuseの企業ロゴをリニューアルしました過去にも映像を制作させてもらったというご縁があり、今回はグラフィックデザインでの依頼をいただいたという形です。%3Ciframe%20width%3D%221920%22%20height%3D%221080%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FROiuYQ5Onb0%3Fcontrols%3D0%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E▲ 以前制作した映像ロゴのデザインで重要だと考えていること企業のロゴは、その企業の今現在の形を表現するものであり、未来の形を示すものでもあります。そこで働く社員自身にとっても、ロゴを目にしたり使っていくうちに、そのイメージが内面化していき、その企業のブランドイメージとして受け入れられていくからです。そのためロゴデザインのプロセスを進めていくうえで最も重要なのは「今現在どういった理念やミッションを持った企業なのか」と共に「将来どうなっていきたいか」をヒアリングすることだと考えています。まずはインタビューこれまでの映像制作の案件ですでに何度かお会いし、Polyuseさんの活動については説明を受けていましたが、映像を制作した当時より製品開発の段階が進んでいたということもあり、改めて実際にお会いしてインタビューをすることにしました。Polyuseさんの開発拠点に行き、ロゴの要件や製品について取材します。インタビューをする中で着目したのは、Polyuseの建設用3Dプリンターの強みである「曲面を持ったコンクリート造形物を容易に印刷できる」という点、そしてPolyuseの理念「建設業界をテクノロジーの力でアップデートする」というメッセージです。建設業界のロゴデザインということで、やや古風なイメージのアイデアも一応あるにはありましたが、スタートアップらしい若々しさや建設業界にイノベーションを起こそうとするインパクトを表現したいと考えました。スマートフォンアプリのアイコンになっても違和感のないようなシンプルでミニマルなデザインとする方針が決まりました。手を動かすここからは手を動かす作業がスタートします。まずは思いつくアイデアをひたすら手書きでスケッチしていきます。ここではPolyuseの頭文字「P」をモチーフにしたシンボルマークの案を展開してみています。スケッチをしながら良さそうな案を選び、Adobe Illustratorを使ってデータに起こしていきます。バランスなど調整しながら作業を進めていくことになるので、編集しやすさを意識してデータを作っていきます。パスを結合しないようにアピアランスなどの機能を駆使したり、グローバルカラーのスウォッチを使って色をかんたんに一括で変えられるようにするなどの工夫をします。同時にロゴタイプ(「Polyuse」部分)も検討していきます。ここでは既存のフォントをベースにいくつか検討してみています。フィードバックをもらういったん現状の「P」をモチーフにしたシンボルマークとロゴタイプを組み合わせたもので社内確認いただき、フィードバックをもらいます。「P」モチーフだと横組みでシンボルマークとロゴタイプを並べたときに「PPolyuse」とつながって読めてしまうという懸念があり、「P」モチーフ案からは離れることにしました。またロゴタイプについても、これまでヒアリングした中で印象的だった「人とテクノロジーの共存」というキーワードを取り入れて表現できないかと考えます。既存のフォントをベースにするのではなく、建設の図面のように線を引いて形を作っていくオリジナルのタイプフェイスを制作することにしました。全体のバランスを見ながら、アセンダ(『l』の高さ)をPよりすこし高く、sやeの線は少し細くしつつ他の文字と同じ印象になるように、など細かな調整をします。「u」と「s」の上部のように曲線と直線が隣り合う場合は曲線側が下がって見えてしまうため、錯視補正も入れて視覚的な違和感を無くすように調整しています。曲率連続というアイデアPolyuseさんからは「シェル構造」「位相幾何学」などの建築やプロダクトに関するキーワードをもらい、シンボルマークのアイデアをさらに検討していきます。ここで、建設業界ということでデジタルなだけでないコンセプトを取り込みたいと考え、「曲率連続」のカーブを使うアイデアを取り込んでみることにします。曲率連続のカーブはデジタルでのデザインではあまり見かけない一方、リアルなプロダクトのデザインではよく利用される曲線です。シンプルな角丸でなくリアルな手触りを連想させる曲率連続カーブを使うことで、リアルな製品を扱うニュアンスを表現したいと考えました。最終的に以下の3案にしぼられました。コンクリートのスランプ試験(コンクリートの品質を検査する試験)で使用するスランプコーンや末広がりな建造物を連想させる台形のシルエット高層建築物を連想させる一葉双曲線シェルのシルエット曲率連続の角丸四角形のシルエット」それぞれに3Dプリントの積層を表現したストライプが交わる案に絞られました。Polyuseさんとのディスカッションで「曲率連続」の案に決定。名刺やTシャツ、Webやアプリなど展開したバリエーションを検討して、ストライプの角度や間隔を微調整します。(Googleイメージ検索で類似のロゴがないかもチェックします)。ロゴタイプも角丸に曲率連続のカーブを取り入れてアップデートします。細かい部分ですが、こうした細部は大きなサイズで印刷されたりした時、印象に影響してきます。完成シンボルマークとロゴタイプを組み合わせ、視認性や可読性をチェックして完成です。今回のロゴは単色のロゴだったので、様々な用途に対応できるように、白・黒・グレーのものを用意しておきます。PNG・JPG・SVGを用意しておけばだいたいの用途にはすぐ対応できます。またSNSのアイコンなどで利用する用に、丸でトリミングしたときにちょうど収まるようなレイアウトのものも用意しておくと親切です。ガイドラインの制作納品したロゴはデザイナーの手を離れます。必ずしもデザインの基礎知識を持った人が運用するとは限らず、またプレスキットなどで配布する場合もあるため、意図しない使われ方を防ぐためにガイドラインを用意するのが親切です。ガイドラインはAdobe InDesignで制作します。印刷して使えるようにA4サイズ、4の倍数のページ数(冊子にするにはページ数が4の倍数である必要があります)に編集してデザインします。ロゴのガイドラインで最低限必要な情報は、ロゴのバリエーション提示、最小サイズ、クリアスペース(アイソレーションエリア)の指定、禁止事項の具体例です。クリアスペースを逐一計算しなくて済むよう、ロゴの納品データはクリアスペースを含めたトリミングで出力しておくと親切です。ロゴデータとガイドラインが揃ったら一式を納品し、デザインの作業は完了です。おわりに以上、株式会社Polyuseさんのロゴデザインのプロセスの記録でした。ロゴのデザインを通じて、建設用3Dプリンターで建設業界にイノベーションを起こそうとするPolyuseさんのブランドイメージを表現できたのではないかと考えています。ロゴはこれから様々なアプリケーションに展開されていく予定です。製品に使用いただいているのを見るのが楽しみです。